生 物 水 文 気 候 部 門  北海道水文気候研究所
 北海道  増毛山地  雨竜沼湿原の水文・気候特性  前田一歩園財団   1997~2000
雨竜沼湿原の気象   


雨竜沼湿原は北海道でもっとも多雪地帯である増毛山地の主峰 暑寒別岳の東斜面中腹標高 約850mの溶岩台地に広がる高層湿原である。この湿原を取り巻く気象環境については実測例がほとんどなく,気温などの環境条件はほかの地域における研究例か ら値を推定するにとどまっていた。本研究では,気 温,日射量,風速・風向の機器を湿原中央部に設置して実測し,それらの数値をもとに生物期閻あるい は積算温度など生物活動の指標となる条件あるいは 蒸発散量など流域水収支解明の基礎となる数値を具 体的に提示した。また,風の観測により湿原内に多数分布する池塘の拡大崩壊に関与する可能性のある強風について具体的な数値を得ることができた。
        
  気 温
 雨竜沼湿原の気温は1998 年7月初めから10 月末までの毎時観測データから日平均気温,日最高気温,日最低気温を求め,雨竜沼湿原にもっとも近いアメダス空知吉野のデータ(北緯 43°35.6',東経141°4.2',海抜100) と比較し(図2), 両地点の気温の回帰式(1) としての係数として表1を得た。

      Y=aX+b
ただし,y: 雨竜沼湿原の気温(℃),
    x: アメダス空知吉野の気温(℃),
     a, b: 係数

日平均気温の場合,係数aが1ではないため,雨竜沼湿原ーアメダス空知吉野間の気温減率はアメダス空知吉野が0℃のとき3.9℃/km,10℃で4.3℃/km,20℃で4.8℃/km となる。日最高気温と最低気温については係数aは1に近いことから0℃における気温減率,5.6℃/kmと5.2℃/kmをほかの温域に使っても差し支えない。雨竜沼湿原とアメダス空知吉野の日平均気温の回帰式を利用し,岩見沢測候所(北緯43°12.6',東経141°47.3',海抜42mの日平均気温平滑平年値をもとに雨竜沼湿原の日平均気温平滑平年値を示すと図3 のごとくとなる。なお,計算にあたっては岩見沢と空知吉野間の標高差に相当する気温差を差し引いた。平年値で日平均気温が0℃を超える初日は4月6日,0℃以下となる初日は 11 月15 日である。その間の積算気温 は2314℃で釧路の2589℃よりもはるかに少ない。5℃を超える日は4月28日,秋から冬にかけて5℃以下になる初日は10月23日でその間の積算温度は2203℃で釧路の2449℃よりも246℃も少ない。比較的温暖な気候を好む植物の指標として使われる10℃以上の日は5月31日に始まり,釧路よりも4日遅いだけであるが,9月29日には早くも10℃以下となる日を迎える。これは釧路湿原より18日も早い時期である。その間の積算温度は1764 ℃である。同じく日平均気温回帰式を用いてアメダス空知吉野の月平均気温準平年値から雨竜沼湿原の月平均気温を推定すると図 1 に示すように,最暖月は8月で17.1℃,最寒月は1月で一10.6℃,年平均気温は2.9℃であり,高山湿原特有の厳しい温度条件にあるといえる。

   
     
    研 究 成 果